第一回 AIST Creative HCI Seminar 参加のすすめ
来週 3 月 7 日(火)Human-Computer Interaction に関する無料のセミナー 第一回 AIST Creative HCI Seminar を東京大学本郷キャンパスで開催します。
この記事では、これがどのようなセミナーなのか、また、セミナーを開催する狙いは何か、簡単にご紹介しつつ、HCI が専門の人にも、そうでない人にも、参加をおすすめしてみたいと思います。 YouTube Live でも配信予定ですが、デンマークと香港から物理的に招聘している研究者に会える機会ですので、参加登録のうえ現地に来場いただけると嬉しいです。
AIST Creative HCI Seminar とは?
当セミナーは、 Human-Computer Interaction (HCI) に関する研究の最新動向をつかむため、国際的に活躍する研究者を招待講演やパネルセッションに招いて、AISTが主催するものです。一回で終わりではなく、今後も継続し、おおむね一年かけて、 HCI のさまざまなトピックをカバーする予定です。
HCI は人とコンピュータの関係を理解し、よりよくしていくためのユーザインタフェースやインタラクションを新たに提案するコンピュータ科学の応用分野です。研究手法自体は専門性が高いですが、研究テーマは人とコンピュータが関係するあらゆることですので、 "Software is eating the world" [Andreessen, 2011] とも言われる現代社会と密接に結びついた内容で、専門外の人にも楽しく聴講いただける内容になると思っています。
また、当セミナーの招待講演者は、博士課程取得直後の若手が中心となる予定です。まさに今が旬の研究内容を、熱く語っていただくシリーズにできればと思っていますし、分野の今後数十年を担う方々ですので、ある種、人とコンピュータの関係の未来を占うものになるのではないかと期待しています。学生のみなさまにとっては、近い将来のロールモデルを見つける場としても活用していただけるはずです。
フォーマットとしては、基本オンラインで考えていましたが、新型コロナの感染状況なども鑑み、初回はハイブリッド形式としました。海外から招聘して物理会場で開催し、それを YouTube Live でも配信します。当日聴講できない方に配慮し、内容はできるだけアーカイブして後日視聴できるようにする予定ですが、講演者への質問やパネルでの議論、ひいては参加者同士の交流など、リアルタイムで聴講しないとできないことも多いです。ぜひ参加登録のうえリアルタイムに、できれば現地で参加いただければと思っています。
第一回の内容は?
記念すべき第一回はデンマークと香港から以下のお二人を招いて開催します。紹介文はセミナー公式サイトから引用しました。
Jonas Frich
Jonas Frich 氏は、Human-Computer Interaction (HCI) 分野における 20 年にわたる創造性支援研究(143 論文)を分析した "Mapping the Landscape of Creativity Support Tools in HCI" [CHI 2019] などの論文があり心理学分野の背景を持つ HCI 研究者です。Jonas 氏の講演は、創造性支援研究のこれまでを知り、これからを考える、またとない機会になるはずです。
私は昨年 6 月に Jonas の住むオーフスまで彼に会いに行っています。彼はコンピュータありきの創造性について継続的に研究をしており、心理学分野で私が注目していた研究者(Glăveanu 氏)のことを知っていたり、今の HCI 分野での創造性支援(Creativity Support)研究について、よいところと足りていないところの議論がぴったりかみ合ったり、非常に意気投合しました。
このセミナーのための来日が新型コロナ禍以来初めての長距離渡航で、テーマ的にも個人的にも非常に楽しみにしてくれているようです。コンピュータを、人が創造性を発揮するための効果的な道具にしていくにはどうしたらいいのか、とくに HCI 研究者は何に取り組んできて今後どうしていこうとしているのか、分野の文脈を一気に把握しつつ未来を考えるきっかけにできる講演とパネルになることを期待しています。
Zhicong Lu
Zhicong Lu 氏は VTuber とファンの関係を調べた "More Kawaii than a Real-Person Live Streamer" [CHI 2021] や 「どうぶつの森」の社会動態を調べた論文 などの著者で、コンピュータが可能にした創造的活動を社会科学的視点で分析してきた HCI 研究者です。Zhicong 氏の講演は、文化に深く根差したコンピュータの利活用法を知り、その調査手法を学ぶ稀有な機会になるはずです。
私が Zhicong 氏と初めて会ったのは、2019 年の夏、彼が Adobe Research の研究インターンとしてシアトルに滞在していたときでした。 Adobe の Rubaiat 氏に紹介してもらって会ったのですが、当時はどちらかというと Adobe らしい新技術寄りの研究をしていました。以来、たまに研究をウォッチしていたところ、WEIRDな研究が主流の HCI 分野に一石を投じる論文をどんどん刊行し始めました。
中国辺縁部での動画ストリーミングサービスの使われ方や、VTuber とファンの関係や、「どうぶつの森」でのプレイヤー同士の関係など、文化に根付いた創造的活動の調査研究が出色で、初音ミク文化の近くで、また、アニメ業界の片隅で創造性支援の研究をしてきた私としては、そういうアプローチがあったか!と目からうろこが落ちる思いでした。日本を舞台にした研究に取り組んでいますが、実は初来日とのことで、やはり非常に楽しみにしてくれているようです。
パネルセッション
二人の招待講演に続けて、私も加わってパネルセッションを予定しています。現時点で、すでに、参加登録いただいている方に HCI だけでなく認知科学、文化人類学、メディア論など幅広いご専門の方がいらっしゃることが分かっておりますので、学際的で自由な議論ができればいいなと考えています。
少しでもご興味を惹くキーワードがあれば、HCI を専門にしている方も、そうでない方も、ぜひ会場にお越しください!登壇者と運営メンバー一同、お待ちしています。(なお、しつこいようですが新型コロナ対策もあって**参加登録が必要**です。登録は、なるべく直前まで受け付ける予定です。)
AIST Creative HCI Seminar のねらい
最後に、なぜこのセミナーを始めたのか、趣意書の文章を引用します。
HCI 分野の海外有力ラボ(Microsoft, Adobe, CMU, MIT, UC Berkeley, ...)では、定期的に研究者のトークイベント(セミナーシリーズ)が開催されており、分野のオーバービューが掴みやすくなっている。日本は、人がきづらい地理的な事情からこうしたセミナーシリーズを開くのが難しかったが、新型コロナ禍で遠隔地の学会や講演が一般的になったので、オンラインのセミナーシリーズ(+交流会)にはニーズがあり、実際、開講できるのではないか? これを産総研所内のみならず所外にもオープンに開講して講演録を残すようにすると、みんな(講演者、産総研所内、所外)嬉しいのではないか? テーマとしては HCI 全般とするが、とくに AI が当たり前の時代に HCI が果たす役割をあぶりだすため、毎回の講演者には、自身の研究紹介に加え、創造性 (creativity)というキーワードと自身の研究の関係を簡潔に説明していただく。
産総研では、現在、8 つの研究チームが集まって、AI 時代における人間の重要な役割である「創造性」を発揮できるようにする技術開発に取り組んでいます。私はそのプロジェクトをリードしており、当セミナーに関しても、ごく初期の段階では所内向けに設計していました。セミナーのタイトルに「Creative」とついているのはその名残りで、産総研が創造性支援の研究を進めていることの意思表明でもあります。
ただ、モデルにした海外ラボが定期的に開催しているセミナーのようなものが、そもそも日本であまり一般的でないことが分かってきたので、所内に留めておいてはもったいないし、より幅広い方々に協力してもらいながら進めたいと考えるようになりました。そこで、CHI 勉強会などの機会に企画の意図を宣伝して運営チームのメンバーを募り、分野の先生方をお呼びしてAdvisory Boardを組成しました。
こうして多くの方々の協力を得る中で、セミナーをフルオープンにして、Japan ACM SIGCHI Chapterの共催も得て、HCI 研究の最先端のスナップショットが残るようなシリーズにしようという骨格が固まってきました。
はじめに「AIST Creative HCI Seminar とは?」で書いたとおり、セミナーは今後一年ほど続く予定ですので、ぜひ公式サイトをブックマークしてご注目いただければと思います。また、運営メンバーも随時募集中ですので、ご興味あれば会場でお声がけください。