インターンは居場所作り

投稿者: 加藤 淳
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この記事は Microsoft Research Internship アルムナイ Advent Calendar の 23 日目です。自分は今、産業技術総合研究所に主任研究員として勤める傍ら、アニメ制作会社アーチの技術顧問を兼業しています。どちらもやっていることの根っこは同じで、 Human-Computer Interaction (HCI) とくに Programming Experience (PX) の向上を通じて人々の創造的な活動を支援する Creativity Support の研究を専門にしています。

今回はフリーテーマということで、つらつらと書いてみたところ、居場所を探す、見つける、新しく作るといったような内容になりました。ご笑覧ください。

インターン当時の詳細な話は「北京に 4 ヶ月住んだ話(Microsoft Research Asia)」「情報科学系 海外研究インターンのすすめ〔前・後編〕」に詳しく載っているのでそちらにゆずります。あと、ちょうど樋口さん牛久さん徳田さん穐山さんなどが Redmond に行っていたのと同じ時期に Adobe に行っています。そのときの苦しみは「Adobe Research Internship─ または博論執筆の記録」に書いてあります。

居場所を探す、見つける

今年は Microsoft Research Asia Fellowship 20 周年にあたるそうで、20 周年記念の記事に載せていただいています。幸せそうですね…。ここに写っている Jessica とは、今年の ACM CHI 2021 プログラム委員会 Engineering Interactive Systems and Technologies (EIST) でご一緒しています。インターンのとき無邪気に遊んでいた同期と今こうして一緒に仕事できるのは、なかなか感慨深いものがあります。

Microsoft Research Asia インターン中に誕生日を迎えた

インターンでは、同期はもちろん、メンターとも数か月苦楽を共にするので、指導被指導の関係を越えて仲間意識が芽生えます。メンターからしてもインターンは一年あたり取れてせいぜい数名ですから、学生を忘れるということはまずありえません。また、住めば都とはよく言ったもので、数か月経つとそれなりに土地勘もできて街に愛着が沸いてきます。シアトルの近くで国際会議などがあると、今でも、できるだけ古巣 (Microsoft Research Redmond, Adobe Research) に寄って当時のメンターに会いに行くようにしています。アメリカは職の流動性がすごいので、所属企業が変わっていることはあるのですが、住む場所に関しては、家族の関係もあるのかそれほど動いていないようです。

修士、博士課程の学生にとって、第一の居場所は大学の研究室だと思います。インターンに出ることによって、精神的にも物理的にも第二、第三の居場所ができる、ということが、自分にとっては非常に大きかったと今になって思います。研究室とインターン先は、きわめて対照的でした。アカデミアとインダストリー、HCI/CG と PL/SE、国内と国外、いろいろな軸で異なる文化を体験するなかで、自分の目指す道を探ることができました。

このブログではこれまでにも学生向けに Student Volunteer, Student Research Competition, Doctoral Symposium などを紹介してきていますが、すべて、国際的な研究コミュニティに参加して居場所を作る切符の入手方法を見せてきているつもりです。これらはきっかけにすぎません。そのあとやっぱりインダストリーに行くとか、国内に留まるといった決断をすることもあるかもしれません。それでも、これを体験せずに修了するにはなかなかに惜しいものと思っておすすめしています。

居場所を新しく作る

さて、時がたつのは早いものです。海外研究インターンは博士課程の 2012-2013 年に行きましたから、はや 10 年が経とうとしています。自分の居場所を探していた頃から、徐々に、他の人のために居場所を作ることにコミットできるようになってきました。まだまだ道半ばではあるのですが、3 点、この場を借りて宣伝と報告をしたいと思います。

2020 年 12 月 23 日 21:30 追記; 大切なことを書き忘れていたのですが、自分は、以下の 3 点に加えて産総研とアーチのそれぞれで研究インターンを募集しています。気になったらTwitterでもメールでもよいのでご連絡ください。

ACM CHI 2021

まず、ACM CHI 2021 Student Research Competition。来年 1 月投稿〆切です。Chair を務めさせていただいています。HCI 分野の学生のみなさま、ぜひ投稿をご検討ください。

インドネシアの学生に頼まれて Competition を紹介したときのスライド(日本でも同様のトークの機会をいただける場合はご連絡ください)

初音ミク「マジカルミライ 2020」

次に、初音ミク「マジカルミライ」プログラミング・コンテスト。このブログをご覧の方なら初音ミクについてはご存知と思います。年次でマジカルミライという公式イベントが開催されているのですが、そのうたい文句が「創作で繋がる初音ミクたちのライブ&企画展」なのはご存知でしょうか。N 次創作でこれまで盛り上がってきた初音ミクの文化を反映し、来場者が創作を楽しんだり、創作したいと思えるようなイベントを目指しているというふうに自分は理解しています。

そのマジカルミライで、今年初めて、弊所の技術協力でプログラミング・コンテストが開催されました。TextAlive App APIという研究成果が使われています。音楽、イラスト、動画、さまざまなクリエイターの方々が初音ミクの創作文化を彩ってきたのですが、そこにプログラマの方のための場所を作る手助けができたと思います。先週入賞作品が発表されたばかりです。ぜひ、公式サイトTextAlive の特設サイトで素晴らしい応募作を見ていってください。

初音ミク「マジカルミライ 2020」企画展ステージの模様

Arch Research

そして、Arch Research。アニメ制作会社アーチの技術顧問として研究開発をリードしています。具体的には、絵コンテを描ける Web ベースのツール「Griffith」を作ったり、絵コンテの制作プロセスなどアニメ作りの技術を紹介する小冊子「アニメ技術」を発刊したりしています。Arch Research のメンバーは極めて少ないのですが、じつはその外縁にアニメの監督さんやアニメ作りに興味を持つ情報技術系の人たちなどを加えた「アーチ技術部」というコミュニティがあり、アニメ技術は放課後 R&Dを楽しんでいる技術部メンバーの刊行物という位置付けになっています。

アニメ技術」表紙は近未来のアニメ作りをイメージして設定を作り、典樹さんに描いてもらっている

この Arch Research を作るときに定めた 3 つのテーマが「Human-Computer Interaction」「Global Research」「Third Place」でした。 Third Place とは家庭と仕事場に次ぐ社会的な居場所を指す言葉で、大学至近の Lab-Cafe 設立に首を突っ込んでいた時分に知ったものです。アニメ作りと情報技術の両方に興味のある方のご連絡をお待ちしています。

蛇足ながら、 Arch Research では今年パブリックプレビューが始まった Microsoft Azure のアニメ顔検出機能(Media Services / Video Indexer / Animated Character Detection)の研究開発に協力しています。イスラエルのチームにデータセットを提供したり、機能のユースケースについて議論したりしました。(広義)古巣に貢献できて嬉しく思っています。詳しくはアニメ技術 2019 秋をご覧ください。

最後に

こうして書いてみると、ACM、産総研、アーチと、アカデミアから産業界までいろいろな立場で、それなりに多様な取り組みができている気がします。これだけの自由度を与えてくれている今の環境に感謝するとともに、今後も、自分が解くべき問題を解ける範囲で解いていきたいという思いを新たにしました。

最後に、この記事を読んで、面白いことをやっているなと思ったらぜひお声がけください。みんなで楽しく、技術の力で創作文化を支えていきたいです。