HCI研究者とクリエータの関係
ACM 発行の学生向け季刊雑誌 XRDS で特集 "Exploring the Horizon of Computation for Creativity" が組まれ、創造性支援研究に関して寄稿しました。人々の創造的活動に寄り添い研究開発してきた経験をもとに書いたもので、この豊穣な世界が伝わるといいなと思います。
Human-Computer Interaction (HCI) の研究分野は創造性支援ツール (Creativity Support Tools; CSTs) について長い歴史を誇ります。これは学術的には確かな価値を持つと思うのですが、一方で、技術的新規性を重視過ぎるあまり、例えば新しい CST の評価が研究室のような小規模で統制的環境においてのみ行われ、「実際の (in the wild)」創造的活動に関する扱いが不十分であるという批判もあります。
そこで、HCI 分野のトップ国際会議 CHI 2023 では、多様な背景を持つ研究者に声をかけて Special Interest Group on Creativity and Cultures in Computing (SIGCCC) という会合を開きました。ほんらい "open-ended, culturally embedded, collaborative" である人々の創造性を理解し、支援するためにできることを議論したのですが、この会合の事前アンケートをもとに組成したサブグループの一覧がすでに興味深いです:
- From Big-C to mini-c: everyday creativity for well-being
- End-user development, malleable software, and socio-technical programming environments
- Fan community, online worlds, and social creativity
- Culture biases and WEIRDness
- Human-AI co-creativity and agency
私の XRDS への寄稿記事でも、こうした論点に触れています。具体的には TextAlive の様々な実証実験や API を用いたプログラミング・コンテストに触れ、クリエータの方々(BIGHEADさん、Misora Ryoさん、daniwellさん) の活躍も紹介できました。また、アニメ監督の村田和也氏と絵コンテ制作支援ツール Griffith を開発してきたことも紹介しました。
学術研究において新規性は重要ですが、新規性ゲームのためにクリエイターの活動をつまみ食い(cherry-pick)していないか自問する必要があると思います。創造性支援にまじめに取り組もうとすればするほど、創造的活動が位置づいている文化的背景とその歴史の豊かさに驚かされます。そうした価値観を尊重しながら研究を進めることは可能ですし、そうすることでしか得られないものがあるのです。寄稿記事は ACM Digital Library でオープンアクセスなので、ご興味あればぜひ読んでみてください!
このブログには英語版のページがあります。英語版はどうしてもおっくうで手が出ていなかったのですが、よく考えてみれば、 Facebook にはときおり英語で投稿しているので、その内容をもとにすれば大した手間なく書けることに気づいた次第です。