五年目を振り返る
博士課程を修了し、現職に就いてから早 5 年が経とうとしています。正確にはあと 4 ヶ月ありますが、年末お仕事が納まったタイミングで振り返っておこうと思います。これまでの振り返り記事はこちらから。時系列での活動履歴はポートフォリオサイトでも確認できます。
今年度は、肩書きが増えたり変わったりしました。まず、7 月に本職に加えアーチ株式会社の技術顧問となりました。自分のやりたいことが変わったわけではなく、それを実践するための場が増えたという感覚です。早速 @mactkg が仲間に加わってくれて、ワイワイ楽しくやっていこうというところです。とりあえず技術書典 5をスポンサーさせていただきました。具体的なアウトプットとしては、来年何かお披露目できるといいなと思っています。アニメ制作に興味のあるソフトウェアエンジニアや研究者の方は是非ご連絡ください。しばらくは、みなさんの時間を 100%頂戴するのではなく、ゆるくご一緒できるといいなと思っています。プロボノ的な、あるいは週末兼業的な、気軽な関わりかたができます。
次に、本職の産総研では 10 月に研究員から主任研究員となりました。ちょっと偉そうです。でも、何が変わるというわけでもなく、のびのびデザインしたり、ごりごりコードを書いたりしています。むしろ、来年からパーマネントになれることが決まってリスクが取れるようになり、尚更デザインしたりコーディングしたりする時間を増やせている実感があります。そんな環境には、とても感謝しています。
TextAlive
今年度、本職で一番力を入れたのは TextAlive でした。「マジカルミライ」という、初音ミクに端を発する創作文化の広がりを体感できるイベントでTextAlive がフィーチャーされました。
まず、イベントのグランプリ曲「METEOR」のライブ背景映像として TextAlive で作られた動画が使われました。この動画は研究グループ内外から多くの助けを得ながら私自身が作ったものです。SNOW MIKU LIVE! 2018に続いての TextAlive 背景映像採用となり、とてもよかったです。素晴らしい曲と初音ミクのモーションとともに、みなさまに楽しんでいただけたら幸いです。
さらに、マジカルミライの「クリエイティブステージ」という企画で登壇し、TextAlive についての講座を開きました。興味のある人がどれだけいらっしゃるだろうかと戦々恐々としていたのですが、蓋を開けてみたら大阪会場 2 回、東京会場 1 回の全てで立ち見が出るほどの大盛況でした。既存ユーザの方ももちろんいらっしゃいましたが、多くの潜在的ユーザの方々に知っていただけてよかったです。
TextAlive 講座の目玉コンテンツは 3 つありました。1 つ目は講座に合わせて改装した TextAliveで、「METEOR」ライブ背景映像を題材にライブデモしながら機能解説しました。
2 つ目は、TextAlive の研究開発を通して目指している創作の未来についての議論と、それを受けての後藤さん BIGHEAD さんとの鼎談セッション。BIGHEAD さんは世界を股にかけるボカロ P で、事前にお会いしたことは全くなかったのですが、TextAlive の設計思想を深く深く理解したうえで活用してくださっており、鼎談でも毎回新しい話ができて大変面白かったです。
最後に、典樹さんに描いていただいたメインビジュアルが表紙の TextAlive 解説小冊子。TextAlive の世界観を何度も議論しながら、一緒に綺麗なビジュアルを作り上げることができました。講座では、毎回多めに見積もって運び込んだ冊数が全部はけてしまいました。まだ在庫がありますので、機会があれば頒布したいと思っています。
このような華々しい機会を十分に活かせるよう、4 月から 8 月までは、TextAlive の実装、ロゴタイプや配色のデザイン、「METEOR」用の映像制作、メインビジュアルや小冊子デザインの監修…と頭のまったく違う部分を使い分けながら忙しく過ごしていました。
TextAlive については今まさに実装中の機能もあり、来年、今年度のうちにさらにアップデートを重ねていく予定です。
Songle Sync
9 月以降は、今年の初頭あたりから自分がリードするようになった「Songle Sync」プロジェクトに関連するアカデミックな発表の機会が続きました。たくさんのデバイスを音楽に同期してコントロールできる技術で、すでにライブなどで実用されています。
まず、IEEE VL/HCC 2018 ではSongle Sync のインタラクティブな Web チュートリアルを実現するために必要だった開発環境技術「DeployGround」についての発表を行いました。
初めて参加する国際会議ではあったのですが、プログラミング支援に関する会議ということで、周りを見れば知り合いだらけで気楽に楽しめました。博士課程の学生を何年もやりながら Eclipse のグラフ描画ライブラリに貢献し続ける人と**「Deploy or Die」**の精神について熱く語るなど、なかなか有意義でした。リスボンはとてもいいところでした。
次に、ACM Multimedia 2018 では「Songle Sync」そのものについての発表を行いました。自分が主に論文を書いたとはいえ多くの人が関わって初めて可能になったものなので、失敗が許されないプロジェクトで重圧がありました。 自分が主著で論文を書いたなかでは初めての(というか今後恐らくなさそうな)ことなのですが、ライブラリの基本的なコーディングをエンジニアの井上さんがしてくださっていたため、性能評価を行うにあたりコードを読み直したり、それでバグが発見されたり、いろいろなことがありました。
会議自体は自分の専門外で**「まったくわからん」**発表が過半数を占め、意外とマルチメディアな発表が少ないなど(だからこそ真にマルチメディアな Songle Sync がウケたのでしょう)若干の疎外感を感じましたが、基調講演者のErnest Edmonds 氏などとの出会いにも恵まれました。
その他の諸々
いろいろなことがありました。
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5 月 25 日 慶應義塾大学で情報工学特別講義「プログラミングのためのユーザインタフェースと創作支援の未来」を行いました。
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ACM UIST 2018, LIVE 2018, PX/18 など、国際会議や国際ワークショップのプログラム委員としてプログラム編成に貢献しました。他にもジャーナル査読など地味にいろいろ貢献しました。
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11 月 3 日 日本ソフトウェア科学会 機械学習工学研究会(MLSE)の論文読み会「XX for ML #1」で「機械学習開発支援のためのインタラクション研究 論文紹介」を行いました。
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11 月 8 日 TextAlive の設計思想「ネット時代のコンテンツ技術」「人と人を結ぶ創作支援」についての新聞記事が日刊工業新聞 朝刊に掲載されました。そのうち産総研公式の「技術で未来を拓く」にも載ると思います。
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12 月 3 日 SIGPX 第 5 回勉強会を開催しました。
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12 月 7 日 SIGGRAPH Asia で今年初めて開催された「Real-Time Live!」の運営委員としてプログラム編成や運営に貢献しました。
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情報処理学会会誌 2019 年 1 月号の「先生質問です!」コーナーに100 年後のコンピュータ科学についての回答を寄せたものが掲載されました。
主に仕事のことばかり書いてきましたが、今年度はプライベートを充実させるということも重要な目標でした。技術顧問職が増え、仕事量は単純に増えているので難しい話なわけですが、幸福度の観点ではよくやったかなと……プライベートに割く時間を量的に増やすのは………今後善処します。
博士課程の頃は、思うところあって自ら進んで「自閉モード」になっていました。課程修了から 5 年が経とうとする今、TextAlive、Songle Sync、SIGPX、名状しがたいお茶会、アーチなど、多くの人の協力を得ながら進めるプロジェクトに囲まれる日々となり、だいぶ様相が変わってきています。来年は、周りの協力も得ながら、ますます新しいことに挑戦していく年にしたいと思っています。引き続き、よろしくお願いいたします。