粘菌の培養に失敗しました
研究所の近辺にはきのこが生えます。
こういう立派なきのこがたくさんいます。8 月は暑すぎてひっそりしていましたが、台風一過でまた出てきました。
ただ、今回の主役はきのこじゃなくて、こっちです。
最近この真性粘菌であるところの真正粘菌亜綱モジホコリ目モジホコリ科キフシススホコリを育てようとして失敗したので記録を残しておきます。
粘菌とは何ぞや
一般に粘菌というと、
- 粘っていて移動するアメーバみたいな変形体になる時期
- 決まった場所に留まって胞子を含む子実体を形成する時期
を繰り返す生物を指すようです。
そんな粘菌は、常に細胞性をなくさない細胞性粘菌と、目に見えるまとまり全体が一つの(ただし核はたくさん含む)大きな細胞である真性粘菌に分けられます。
名前からしてどちらも菌類のように思われますが、菌類をまとめた大分類である菌界の下に入るのは細胞性粘菌(菌界変形菌門アクラシス鋼)だけのようです。
一方の真性粘菌は、真核生物のうち菌界でも植物界でも動物界でもないもの(つまりその他大勢)が寄せ集められた原生生物界に属しています。
菌でも植物でも動物でもない生物ってすごい魑魅魍魎感です。そんなやつを散歩中に偶然見かけたので、捕獲してみたのでした。
ちなみに、細胞性粘菌のサブカテゴリであるアクラシス目とタマホコリカビ目は遺伝的にかなり離れていることが後から分かったらしく、細胞性粘菌というグルーピングそのものが無意味ということで解体されつつあるそうです。(モデル生物として有名なキイロタマホコリカビを含むタマホコリカビ目は、真性粘菌に近いほうで原生生物界にカテゴライズされるらしい。)
初対面はスルー (6 月 29 日)
実は、最初に見つけたときはすごい色のきのこだとしか思わずスルーしました。その後で菌友から粘菌のことを教わり、改めて探してみたものの、子実体になってしまった後のものばかり見つける日々が続きました。左の写真では、指で触ったところだけ黄色い表面が剥がれて茶色の胞子が見えています。
胞子の状態から変形体になることもあるそうで、寒天培地に置いてみたりしたのですが一向に孵らず。
捕獲 (7 月 12 日)
そうこうしているうちに、夕方の公園で変形体と相見えることができました。急いでビニール袋に採取して寒天培地上へ。
採取して運んでいるうちに黄色だったものがどんどん赤くなってきて、子実体になりそうな色になってきたので冷や冷やしましたが、しばらく静置したところ黄色に戻り、餌を探しにいく様子が観察できました。
ススホコリはオートミールを食べない
捕獲時点では、つかまえたものが黄色かったというだけで、モデル生物としてよく使われるモジホコリと、ススホコリの区別が全くついていませんでした。どちらもモジホコリ目ですが別物です。
それで、モジホコリの育成にはオートミールというにわか知識でオートミールを置いてみていたのですが、全くダメ。即死でした。(死ではなく子実体になっただけですが…)
カビ、戦争、復活 (7-8 月)
その後はほとんど諦めて放置していました。一週間ほどの間に寒天培地にもふさふさの白カビが生え、さらに時間が経つとカビすら姿が見えなくなり(正確には寒天培地の下にもぐったように見え)ました。
一か月が経過し、もうそろそろ捨てようかと思っていた矢先に、突然変形体が息を吹き返したのでした。透明だった寒天培地が茶色くなり、ダメ元で使い終わったカフェポッド(コーヒー豆の出涸らし)を突っ込んでみた頃の出来事でした。というか、今改めて写真を見ると、寒天培地上を変形体が何度も這ったような跡がありますね…。
どなたか詳しい人の解説が欲しいところですが、ススホコリの餌はカビなどであるということで、カビが生えたことでむしろ栄養源ができ、カビと戦って勝ったということのように見えます。タッパーウェアの中の世界にドラマを見出して興奮したものです。
餌を与えてみた (8 月 25 日)
こうしてどす黒いタッパーウェアの世界に明るく黄色い希望が生まれたので、そのまま元気に育ってくれることを願って次の手を考えました。
とりあえず猿の浅知恵で、カフェポッドを入れた直後に元気を出したので、もう一個カフェポッドを追加で突っ込んでみました。
バナナの皮も入れてみましたが、これは全く興味を示しませんでした。
そうこうするうち一週間が経ち、保湿のために入れていたティッシュに変形体がたくさん取りついたので、新しい培地に移すことにしました。
新天地にて (8 月 28 日)
寒天培地を新しく作り、変形体をティッシュとカフェポッドごと新天地に移したところ、最初の一日はそれまで通り動き回る様子が観察できました。
ただ、その直後に様子がおかしくなりました。
ススホコリが、培地上のわずかな変形体を残し、ティッシュ上に集合を始めたのです。この嫌な感じは、以前、変形体がすぐ子実体になってしまったときと全く同じでした。
けっきょくカフェポッドを追加で入れても何にもならず、子実体が形成され、静かな時が訪れたのでした。
変色が始まってから餌となるカビを与えた(写真中、培地上の黒い塊)のですが間に合わず、こうして、紆余曲折を経た粘菌培養は失敗したのでした。
といっても、またしばらく放置するつもりなので、いきなり変形体が現れるかもしれません。野生の粘菌を探しながら、その時を待ちます。
9 月 2 日追記; 黄色くないし、変形体には見えないのですが、何か黒いものが動いています。